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モンゴルにHICARE幹事等を派遣

昨年モンゴルからHICARE研修生として来広したナイムシュレン・ツブシンバット氏(核戦争防止国際医師会議〔IPPNW〕モンゴル支部長)の協力のもと,モンゴル国の放射線被ばく者医療体制の現状を調査し,今後の連携を図るため,幹事等をモンゴル国に初めて派遣しました。

期間:

平成19年3月19日~3月23日

構成員:

星 正治 広島大学原爆放射線医科学研究所教授,HICARE幹事
松尾 雅嗣 広島大学平和科学研究センター 教授

訪問先:

モンゴル国健康省
シャスティン中央病院
モンゴル国立大学 等

所感等:

昨年,2006年,HICAREの招聘でツブシンバット先生(IPPNWのモンゴル代表)が広島大学を訪問され,その際モンゴルでは2カ所に放射線による被曝の可能性があると説明を受けた。一つはモンゴルの西部でセミパラチンスクやロプノールからの放射能を含む雲が通った可能性があること,もう一つは東部でウラン鉱山があることである。モンゴルにおけるこれまでの調査はないとのことであった。そのため,アンケート調査による影響調査と,土壌中のセシウム137の測定による土壌汚染の調査を提案した。アンケート調査は広島大学の松尾雅嗣教授が中心となり,本年2007年3月に原医研で開催されたシンポジウムでツブシンバット先生が発表した。それは約20名の予備的な調査についてである。今回の訪問は,モンゴルにおける病院,大学,研究所などを訪問し施設を調査すること,また過去に被ばくの調査があるかどうか,あるとするとその内容について調査することが目的である。今回は松尾教授も訪問に参加された。訪問先ではいずれも快く迎えてくれて歓迎された。またツブシンバット先生にはずっと行動を共にしていただいた。またMargadさんが常時,変更等を含めて我々を支援してくださった。

3月19日(月):

福岡空港を出発し,ソウル経由でモンゴル,ウランバートルへ向かった。到着は予定通り深夜に到着した。出発前,ネットで調べると気温-20度とあったので心配したが,気温は0度くらいでその後も変化なく天候もよかった。ホテルの名称はバイナゴルで旧ソ連の仕様であったが,暖房は十分で広く快適であった。
またLANも装備されておりインターネットは高速で使用できた。テレビもNHKが常時見られた。

"Zaisan"hillよりウランバートを臨む

3月20日(火):

Prof. Sodnomdarjaa. R, General Director, State Central VeterinarySanitary and Diagnostic laboratory を訪問。ここではセシウムの測定ができる施設を確認した。最近IAEA から提供を受けたとのこと。約15,000,00円の設備(ゲルマニウムカウンター)があり運転を開始したところであった。共同での調査について快く了解していただいた。
 Dr. Enkhbat Sodnom, Secretary of Mongolian Nuclear Energy Commission を訪問。モンゴルの原子力研究所に相当する。ここには特に放射線の測定のための設備はなかった。翌日セシウムの標準場があるとのことで見学に行くことにした。
 Prof. Ts. Adyasuren, Head of Mongolian Ozon Union (former Ministry ofEnvironment)を訪問。ここは環境大学的なところであった。環境のモニタリングをしていることについて説明があった。
 Prof. Batsereedene Byambaa /Mrs/, State secretary, Ministry of Healthを訪問。ここは保健省で書記の肩書きの女性と面会。ツブシンバット先生の教え子とのこと。保健省としても全面的に協力すると約束していただいた。

Prof. Sodnomdarjaa (General director, State Central VeterinarySanitary and Diagnostic laboratory)氏と関係者

3月21日(水):

ツブシンバット先生の病院The Shastin Central Clinical Hospital (約400床)を訪問し,病院を見学。若い先生も多く活気があった。
 Mongolian Nuclear Energy Commissionのセシウムの標準場(放射線の計測器を校正する)を訪問。地下室にセシウムの照射装置があったが,古いもので日本ではとても使用に耐えるとは考えられない設備であった。
 国連大使Ambassador Enkhsaikhan Jargalsaikhan, General Director, Blue banner Co., Ltdと昼食。ここでは意見交換を行った。特にモンゴルの西側の汚染地図があるとのことだったのでそれを翌日持ってきてもらった。ユーラシア大陸の世界的な汚染地図であった。確かに西側が黒く覆われ汚染を示していたが,専門的な地図とは感じられなかった。
 Dr. N. Norov, Nuclear Research Center National University of Mongoliaを訪問。出張で所長はあいにく不在であった。土壌中のセシウム137の測定ができるゲルマニウムカウンターがあると聞き急遽訪問。キャンベラ社の古いものがあった。他にX線による分析装置などがあり,放射線を使った分析用の機器が多数あった。ここでは土壌の測定も行っていたが,体系的な汚染地図はなかった。共同での調査は歓迎するとの約束を得た。 夕方には,"Mongolian folk music and dance concert"を見た。約1時間のショーでモンゴルの民族衣装を着て,歌やオーケストラ的な演奏を聴き,ダンスを鑑賞した。楽器は,西洋のギターやチェロに対応するもの,日本の琴や笛に対応するものなどあり,シルクロードや蒙古帝国の交流によるものと感じられた。不思議な体験だった。楽器には中国的なものも含むがそれとは少し異なる。

ツブシンドバット先生の病院

Nuclear Research Center National University of Mongolia Dr.N.Norov氏と

3月22日(木):

日本語の通訳とともに,市内観光。チベット仏教の国であり,大きな寺院を訪問。自然史博物館を訪問。百貨店で土産物を買った。
 夕方には,空港の近くのゲル(テントの家)の形のホテルで飲みながら休憩。
ツブシンバット先生やその子息,旅行業者も参加。10時過ぎ,空港へ出発,12時を回ってソウルに向け出発。翌日早朝ソウルから福岡を経て広島へ帰国。

チベット仏教の寺院にて

終わりに:

 この訪問で,モンゴルの人々は日本人に近く,親近感も強いことが感じられた。町中では大きなテレビで日本の相撲を上映し,職場ではモンゴルの放送局が相撲を放映し,仕事中にも関わらず見ていた。相撲は若者を含め全世代で大人気だそうだ。これから共同で調査等を進めるとしても順調に進むと感じられた。再度訪問したい。次の時には実際の調査をモンゴルの医療関係者や研究者で進めることができるよう,話し合って指導や協力をしたいと思う。

(星 正治)